オーバーホールとは

機械式腕時計は、ごくシンプルな機構のものでも、70~80個もの部品で構成されています。

少し複雑なものになると、300個とか400個もの部品が使われることもあります(1,000個以上!の部品が使われている時計も存在します)。

腕時計の大きさは限られていますから、1つひとつの部品の大きさは、数ミリにも満たないごく小さなものとなります。

これほどの数の部品が、厚さわずか数ミリメートル、直径数センチメートルの空間の中で、精巧に組み合わさって各々の仕事をしているわけです。

そして、これらの部品が上手く咬み合い、スムーズに動くためには、定期的なメンテナンスが必要となります。

腕時計の部品を分解し、調整して組み立て直すことを、オーバーホール(overhaul,分解掃除)と言います。

オーバーホールでは、酸化したり粘性が強くなったオイルを洗浄して、新しいオイルを注油したり、破損や摩耗のある部品を交換したり、歩度の調整をしたりします。

このほかにも、たとえば防水時計には防水試験を行ったり、磁気帯びした時計は磁気を除去するなど、時計に合わせた検査や調整が行われます。

数年ごとのオーバーホールにより、腕時計はその機能を最良の状態で発揮することができ、また時計としての価値も保つことができるのです。

なぜオーバーホールが必要なのか?

腕時計は精密機械で、数多くの部品が組み合わさって動いています。

時計の機械部分は、歯車やゼンマイなどの部品が常に動いているため、油が劣化すると摩耗してきます。

オイルの種類にもよりますが、およそ3~4年ごとにオーバーホール(分解掃除)を行い、 メンテナンスすることで、時計を末永く使用することができるようになります。

油切れの状態で使用し続けると、部品が摩耗し、時計の寿命が縮まります。 また、ケース内のサビや腐食などに気づかないと、さらに進行してしまいます。

そのため、不具合を早めに発見し、いつまでも調子よく使うためには、定期的なオーバーホールが必要となるのです。

定期的にオーバーホールすることで、部品の摩耗を防ぎ、精度を保ち、良いコンディションを維持することができます。

オーバーホールでは、まず時計内部の部品をすべて分解します。

そして、専用の機械に入れて洗浄し、古いオイルや汚れなどを除去します。 また、ケースやブレスなども同様に、超音波洗浄器を用いて、皮脂やホコリなどの汚れを取り除きます。

部品がすべてきれいになったら、元通り組み立てていきます。 ここでの組み立て調整作業は、千分の数ミリ単位で行う繊細な作業です。

組み立ての際には、新しいオイルを注油していきます。 数ミリしかない小さな部品の、さらに必要な部分だけにオイルを塗っていきます。

最後に1日あたりの誤差(日差)を微調整します。

機械式時計は、時計の癖や普段の使用状況などによっても誤差が異なります。 そのため、調整段階でどのように調整するかは考え方にもよりますが、 一般的には、ゼンマイが緩むと遅れ始めるため、当店ではやや早めとなるように調整しています。

クオーツ時計(電池式の時計)はオーバーホールの必要がないと思われるかもしれませんが、 クオーツであっても、すべてが電子部品でできているわけではなく、歯車などの機械部品も使われています。

そのため、メンテナンスせずに使用すると、精度が悪くなったり、電池の消耗が激しく通常より早く止まるったりするようになります。

ですから、クオーツ時計にもオーバーホールは必要です。

なお、当店では機械式時計でもクオーツ時計でも、修理対応が可能です。

オーバーホールの手順

オーバーホールは「分解掃除」と訳されますが、もちろん分解して掃除するだけではありません。

以下に、オーバーホールの手順について、ご紹介しましょう。

まずは、時計を分解します。
1.裏蓋を開け、ケースからムーブメントを取り出す。
2.ムーブメントから針と文字盤を取り外す。
3.時計機構を分解する。
4.カレンダー機構を分解する。
5.針回し機構を分解する。

次に、分解した部品を超音波洗浄機で洗浄します。

前回のオーバーホールから時間が経っている場合は、油が固まっているなどして汚れが取れにくくなっていることがあります。

そのような時は、あらかじめ手洗いしたうえで、機械洗浄します。

洗浄が終わったら、きれいになった部品を組み立てていきますが、組み立てには分解に増して精密な技術が必要となります。

以下の手順で、注油をしながら組み立てます。
1.時計機構を組み立てる。
2.カレンダーと自動巻機構を組み立てる。
3.文字盤と針を取り付ける。
4.ムーブメントをケースに収める。

この組み立て作業は、ただ部品を組み上げればよいというものではなく、途中で何度も精度の調整を行いながら完成させていきます。

輪列が組み上がった段階で、専用の機器を用いて精度を測定し、作業の段階ごとに微調整を繰り返します。さらに全体が組み上がった後にも歩度を確認し、最終調整を行います。

また、時計の置かれた環境によってもズレが生じるため、いくつもの条件下で何度も実測を行い、基準に達したものだけをお客様にお返しします。

なぜ、分解掃除を頼むと何週間もかかるのだろう? と疑問に思われたことがあるかもしれませんが、実は「分解掃除」よりも、「組み立て調整」の途中で、何日間もかけて計測を行っているからなのです。

当店で行っているオーバーホールでは上記のほかにも、不良部品を交換したり、表面を磨きあげたり、防水検査を行ったりするなど、詳しくお話すればさらに細かな工程がいくつもあります。

ちなみに「オーバーホール」を辞書で引くと、「分解・清掃・組み立て」のほかに、「新品時の性能状態に戻す作業のこと」と書かれています。

私たちも、単なる「分解掃除」ではなく、機構も外観も、新品同様になるまで時計と向き合うことがオーバーホールと考えています。

オーバーホールの依頼のコツ

何百個もの小さな部品が組み合わさって動く腕時計は、とても精巧に作られています。

いくつもの部品が噛み合わさって動き続けるわけですから、ぜんまいや歯車などの部品が劣化したり摩耗したりするのは、避けることができません。

また、時間が経てば、腕時計内部のオイルが酸化したり粘性が増したりします。

ときには、手入れをしていない時計だと、内部の部品に錆が出ていることもあります。

そのほかにも、内部のムーブメントだけでなく、外装部品もチリや埃、汗などにより汚れが目立つようになったり、小さな傷がついたりすることがあります。

かなり昔の時計になると、外装に経年変化による変色が見られる場合もあります。

そのような状態になった時計を放置しておくと、時計としての機能を発揮できないばかりでなく、時計そのものの価値を低下させることになります。

しかし、定期的なオーバーホールを実施することにより、内部の摩耗や外装の消耗を最小限に抑え、時計を長持ちさせることができます。

オーバーホールは、ねじを締める強さや、オイルを注す量など、熟練技術者の経験によるところが大きく、職人の腕によって仕上がりに違いが生じます。

使用する道具や測定機器に好みやこだわりがある場合もありますし、分解や組み立ての順番なども、基本的な手順は決まっているものの、細かな部分は人によって多少の方法論の違いがあります。

ですから、オーバーホールは、自分の時計のことをよく分かってくれる信頼できる工房をみつけ、そこに定期的に依頼するのが良いといえるでしょう。